「雲が無かったら、きっと綺麗なのに」
ベランダで煙草に火を点けまだらな雲の向こうの月に目をやりながら、僕は言った。丸い、クリーム色の影は霞んでいて、柔らかい光はちらちらと揺れる。
あの空の裏側には、金色の琥珀が浮かんでいるのに、見えないのはなんだかとてももったいない気がした。
「・・・甘い煙草」
鼻先に揺らめいてふわりと消えた紫煙に、ほんすこし眉を歪めながら眺めてぼそりと君が呟く。
それから言った。
「明るい月は悲しくなるから、あのくらいでいい」
「悲しく?」
「そう」
「どうして?」
「秘密を守れないから」
そうして僕の唇の間から細い紙筒を抜き取ると、ゆっくりと自分の唇の間に差し込んだ。
白い指が暗闇の空中を赤い光と一緒に移動していく様を僕はただ目で追って、それきり黙り込んでしまった横顔に、その真意が書いてあるかと見つめても何も見えてはこない。
しばらく煙を吸い込んで、君は左手を薄闇に伸ばす。
僕の手は大きいけれど、君が手を伸ばした先のそれを掴めないような気がした。
この手で掴めるものは、多分あまりにも小さくて、少ないのだろう。
小さな手が球体の宝石を掴むフリをして、君はすこし笑った。
横から見ると、まるでその指の中にすっぽりと収まってしまったかのように見えて、僕は眩しくも無いのに目を細める。
反射した夜光が君の瞳の中に見えた。

君の目には何がうつっているのか。
何よりもただ、それが。
僕は、知りたかった。